Vol.234 ライバル 〜猿とマシュマロ〜
家の近所に歯医者があり、庭で猿を飼っている。 家への行き帰りに見ると、たいてい道路に背中を向けているのだが、顔だけは180度近くこちらに向け、通行人をじろじろ見ている。
革の装具でしっかりと縛られ、逃げたり人間に危害は加えないので、近所の子供が時折せんべいなどをやっている。
ぼくはマシュマロを買って、一つやってみた。 猿は飛びつくようにしてマシュマロを掴んで口に入れ、1〜2回噛んだのだが、すぐに口から取り出し手でグニャグニャといじり、ぼくに向かって投げ返してきた。
何だコイツと思い、もう一度マシュマロをやってみると、手に取ってすぐにまた投げ返し、目をギラギラさせ、板の上でジャンプしながら歯をむき出して威嚇を始めた。 歯医者だけに猿の虫歯も治すのか?と見ていると急に玄関ドアが開き、歯医者の奥さんと思われる女性が出てきてぼくを睨んだ。
すっかり怪しい人物だと思われてしまった。
それ以来、ぼくがそこを通ると、ライバルであるかのように猿が歯をむき出しにして威嚇してくるようになった。
自分が虫歯になってもこの歯医者には来られないなと思いながら通り過ぎようとすると、玄関の看板が目に入った。 歯医者だと思っていたのは実は整骨院だった。
松井政就
'08.3.7
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