Vol.245 目薬で頭突き 〜オジサンよ、謝るな〜
喫茶店で本を読んでいた。面白い本ですっかり夢中になっていたら、目がカサカサになった。そこで、目薬を差そうと、顔を上に向けたところ、ゴツンという音がして、後頭部に硬いものが当たった。
振り返ると、真後ろに、こちらを振り返っているオジサンがいた。ぶつかったのは、背中合わせに座っていたそのオジサンの後頭部だったのだ。
謝ろうとすると、先にオジサンが「すいません」と謝ってきた。悪いのはぼくのほうだ。だから「すいません」とぼくも言うと、オジサンはもう一度「すみません」と言った。
悪いのはぼくのほうなのに、オジサンはさかんに謝るのだ。
不思議だった。
謝ろうとしたぼくは完全に主導権を奪われた。
あまりにも向こうが謝るので、しまいにぼくはつられて、「いや、どういたしまして」と答えてしまった。
松井政就
'08.4.11
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