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Vol.249 コッソリ北京 〜(1)怪しさを楽しむ〜
オリンピックに向けて町全体が工事現場と化している市内。
ひどい大気汚染で前方はモヤがかかって見えるし、トイレでうがいをしたら、口の中が黒くなっていたのがわかった。
ある程度承知していたのだがやはりツライ。しかも強風である。目にも砂埃が入ってとても開けていられず、たまらずバスに駆け込んだ。
(鳥の巣オリンピックスタジアム)
こんな環境で、本当にマラソンが出来るのだろうか?と、首を傾げるうちに夜になり、ペキンダックフルコースを食べに行った。
うまい、うまいと盛り上がり、急にマッサージに行こうと話がまとまった。怪しい階段を上がって案内され、ベッドに俯せになってマッサージが始まった。(女性も入れる普通のマッサージである。念のため)
気持ちいい。隣のベッドから、仲間の恍惚の声が聞こえてくる。みんなは1時間で帰ったが、あまりの気持ちよさにぼくだけ残って2時間もマッサージを受けた。しかし日本円で1500円。安過ぎる値段に感動し、タクシーに乗った。
しかし、ぼくを乗せたタクシーは、指示したホテルの場所とは全く関係ない方角に向かって走り出した。
「ちがう、そっちじゃないよ、こっちだよ」とジェスチャーと漢字で言うが、そんなものは通じない。運転手は「オレの好きに走らせろ!」と言ったのかどうかは知らないが、何か叫んでブンブン飛ばしていく。
すると運転手は途中でタクシーを道の真ん中に停めたまま降りて行き、道ばたで酒を呑んでいる人に地図を見せてあれこれ話をし、戻ってくるなりさっきと逆方向に走り始めた。まるでスタート地点に戻るのか?と思うほど逆戻りした辺りで再び降りて道ばたにいる人に訊きに行く。
この行為を2〜3度繰り返された時点で、ははー、そういう作戦だったのか、と気づいた。 こりゃもう、なるようにしかならないと、ぼくは腹をくくり、途中からはその演技を楽しんでいた。
まっすぐ行けばたった10分足らずのホテルまで結局40分掛かって到着したのだが、その間に車を降りて通行人に場所を訊きに行くこと5〜6回。いや、7〜8回か。それほど一生懸命「演技」をして料金は40元。日本円で600円。
何だ、安いじゃないか。
ぼくは40元を払い、更に「謝謝」と言って10元のチップを上乗せしてやった。
その時の、目をまん丸に見開き、驚いた顔をする運転手を見て、ぼくは「勝った」と思った。
「(2)うっかり北京」へ つづく
松井政就
'08.4.30
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松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
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