Vol.259 美女と変なヤツ 〜首を振り回すオジサン〜
おやつを食べながら麹町の喫茶店で原稿を書いていると、目を惹かれる女性が入ってきた。隣に座って欲しいという願い空しく、向かい側の席に腰を下ろした。
その隣にはネクタイにスーツ姿のオジサンが座っていた。オジサンは女性に気づくと慌てた様子で襟元を直し、髪の毛の分け目を気にし、首を正面に向けたまま目だけを横に向けようとした。
女性の顔を見ようとしているのだとわかった。
オジサンは首が女性の方向を向かないように苦労しながら、さかんに目だけを真横に向けている。
まるで「眼球の体操」である。
正面からその一部始終を見せられたぼくはたまらない。笑いをかみ殺し、携帯を見るふりをしながら様子を観察した。
するとオジサンは、女性と反対側の壁や調度類に首を向けた。
もう女性を見るのは止めたのかとぼくは油断した。
その瞬間、首を戻す反動を利用して首を逆方向に振って女性の顔をしっかり見ると、首をグルグル回転させた。
実はそれが「1セット」となっていた。
首の回転が終わるとまた女性と反対側の壁に顔を向け、戻す時にまた首を振って女性の顔をちらりと見て、最後に首をグルグル回す。それを5セット以上繰り返した頃、女性は席を立って出て行ってしまった。
コーヒーを飲み終わらないまま出るのは嫌だっただろう。しかし首をブルンブルン振り回す変なオヤジの隣にいるのは、もっと嫌だったのだろう。
松井政就
'08.6.12
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