Vol.260 説得力 2 〜週末見た二人の女〜
週末の会合に、見たこともないようなきれいな女がいた。
あっという間に男たちが取り巻き、一人が官房長官のような顔をして言った。
「ミスコンテストに出れば優勝間違いなしですよ!」
女性は、
「賞なんかもらわなくたって満足してるからいいわ」
と、一蹴した。
もの凄い説得力だった。
女性を見つめる男どもの目が、みるみる充血していくのがわかった。
会合の後に入った喫茶店では、隣の席の見知らぬ女がテーブルが汚れていると店員に文句を言い、クロスで拭かせたのに満足せず、ティッシュでゴシゴシとこすり、汚物を摘むがごとくゴミ箱に棄てに行き、戻ってくると今度はホコリを吹き飛ばすかのようにテーブルの上をフーと吹いた。
コーヒーが運ばれてくると、カップの縁をティッシュで念入りに拭き、スプーンも拭き、注ぎ口をティッシュで拭いてからミルクを注ぎ、かき混ぜて口に運んだ時、ぼくが閉じた本がパタンと乾いた音をたてた。すると女は口からカップを離してぼくを一瞥し、テーブルの上を手で払った。
嫌だなと思ったが、関わり合いになるのはもっと嫌なので、巻き込まれないうちに店を出ようと思い、ジャケットを掴んで立とうとした時、袖が女の鞄に僅かに触れた。すると女は、ぼくのジャケットが触れた箇所をさかんにティッシュでこすり始めた。
さすがに気分が悪いので、何かひと言言おうかと思った時、向こう隣のオジサンがむせてゲホゲホと咳をした。すると女はハンカチで口を押さえながら急に席を立ち、ぼくを追い越して店を出て行った。
店を出る必要がなくなり再び腰を下ろすと、向こう隣のオジサンと目が合った。
「これでゆっくりできますね」と、オジサンは言った。
もの凄い説得力だった。
松井政就
'08.6.16
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