Vol.265 もつれる別れ話 〜横浜港のアベック〜
競馬が外れ、何か気を紛らわすことは出来ないかと考えているうちに電車は横浜に到着した。
太陽がかんしゃくを起こしたかのような空の下、破れかぶれの気持ちで港に歩いていくと、涼しそうな喫茶店に人がたかっていた。タイミングよく空いた席に腰を下ろすと、隣のテーブルではアベックの別れ話がもつれていた。
すすり泣きする女に向かって、男は「頼む! わかってくれ」と頭を下げた。
「じゃあ、別れる前に、好きだと言って!」
男はあたりを見回し、いかにも渋々といった顔で、「好きだ」
「もっとちゃんと言ってよ!」
男はため息をつき、うんざりした顔で「好・き・だ」
「だったらどうして別れるなんて言うのよ、エーン」
女の泣く声が大きくなり、男はおろおろした。
近くの席でアイスを食べながら見ていた男の子に、母親と思われる女性が「見ちゃダメ」と言っていた。
松井政就
'08.7.7
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