Vol.272 暑中見舞い 〜おばあさんの希望〜
ラブレターの返事を出すため郵便局に行くと、受付でおばあさんが粘っていた。
暑中見舞いのハガキを出しに来たようだが、郵便係の女性に、ひどい暑さだから猛暑見舞いにしたほうがいいかしらと言っていた。
なかなか世間話は終わらない。
早くしてくれないかなと思っていると、係の女性がハガキをおばあさんに差し戻し、
「これ、80円切手が貼ってありますよ」
と言って確認した。
「いいのよ。ちょっと余計に貼っておいたほうが安心だから」
「50円でいいんですけど」
「多めに貼った分、早く届くんでしょ?」
「いえ、そういうことはありません」
「いいじゃないのよ。お願いね」
ハガキを押し返しておばあさんは窓口を離れ、ようやくぼくの番が来た。係の女性は首を傾げて苦笑いし、大変お待たせしましたとぼくに言った。
その目を見て、おばあさんの希望はたぶん実現しないだろうと思った。
松井政就
'08.7.28
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