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Vol.276 個人的感動のツボ マカオからの報告(2)
我が阪神タイガースが危機を迎えているのでマカオでの話をしている場合じゃないと思ったが、何とか踏みとどまったのでマカオの話の続きである。
さて、ホテルでオリンピックの中継を見ていたら、柔道の浜口京子選手が3位決定戦で勝利したシーンが流れた。度々行く浅草では、雷門の近くに浜口選手を応援する垂れ幕が掛かっているなど気になる選手でもあった。たしかVTRだったが、その彼女が勝って2大会続けてメダルを獲ったことは大変うれしく思った。
しかし感動はそれだけではなかった。地元から駆けつけた大応援団の中で、雷門の提灯が高々と揺れていたのをみて、ついジーンと来てしまった。
その後ホテルを出てタイパ島に足を伸ばし、昔からある古い市街地の散策をしていると、見知らぬ中国人から流ちょうな日本語で、
「案内をしましょうか?」
と話しかけられた。面倒くさいので断ろうとすると、出し抜けに
「日本の夏目漱石が好きだ」
と言う。わけがわからないが日本研究に抜かりはなさそうだ。続けて
「中国について何か知っているか?」
と訊くので、
「孔子は日本でも有名だ」
と脈絡無い事を言ったところ、何と、
「私はその子孫だ」
という。
でかく出たもんだと感心した。
だが、感心している場合ではない。そんなのデタラメに決まっている。そう都合よく、孔子の子孫であるわけがない。そこでぼくは言った。
「あ、間違えた。孟子のほうが有名だ」
すると敵はあっさりと、
「そうでした、孟子の子孫でした」
これでどちらもデタラメであることが証明された。しかし、なぜか彼を憎む気にはならず、むしろ感動してしまった。
「私はカジノのディーラーをしている」
と言っていたが、それももちろんウソだろう。なぜならマカオのカジノでは、現地のマカオ人しかディーラーになれないからである。
<この辺で出くわした>
松井政就
'08.9.11
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松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
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