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Vol.277 取り乱す富豪 マカオの光景(3)
我が阪神タイガースが再び巨人と3ゲーム差の危機に瀕している。10ゲーム以上離れていた頃、「阪神はもっと負けて接戦にならなきゃつまらない」と言った阪神ファンの友だちがいたが、そいつはもうトラ党クビだ。今度会ったら「ばかやろう」と言ってやる。
さてマカオでの話の続きである。
この2年ほどの間にマカオ島は埋め立てによって拡大し、海岸沿いに巨大外資カジノが林立した。
<星際娯楽場>
その中の一つ「星際娯楽場(スターワールド)」というカジノの入り口には身長2mにも届きそうな巨大な中国人美女が、大騒ぎしながら入ってくる中国人団体客を迎え入れていた。
その長身美女の脇を通った時ぼくにも微笑みを向けたので、目を合わせようと顔を向けたらあまりの長身のため首が急角度に曲がり、そのまま右肩のあたりがつってしまった。
そんなことはどうでもいい。
カジノでバカラを始めるとバンカーが3回連続した。すると隣に渥美清とそっくりの中国人がやってきて、いきなり1,000香港ドル札をドサッという音(本当にそういう音がした)を立ててテーブルに投げた。ディーラーが数えると70枚あった。7万ドルつまり日本円で約100万円である。
大富豪の登場か!と思いきや、NHKの集金のおじさんのような格好である。しかし金があるのは確かなようだ。
彼は両替したチップを1万ドルずつ、いま3連続しているバンカーとは反対側のプレイヤーに賭け始め、7連敗してゼロになった。不思議なことだが、外れる時は外れるのである。
「渥美清」は更に5万ドル(約70万円)を取り出し、これまた流れに逆らってプレイヤーに賭けたものの全部ハズレ。
他の客は更に一層バンカーに賭けた。それを見た彼は更なる5万ドルをテーブルに叩きつけたが、それまでとは一転、一回の賭け金を1,000ドルに減らし、ずっと賭けていたプレイヤーとは反対のバンカーに賭けた。するとバンカーが出た。やっとのことで初当たりである。
「渥美清」は「よし!これからだ」というような謎の気合いを入れ、手元の5万1,000ドルを全てバンカーに賭けた。ところが、出たのはプレイヤー。すっかり裏目である。
自分のチップが回収されるのを見ながら突然彼が立ち上がったので「すわ、乱闘か!?」 と周囲は青ざめたが、彼は仁王立ちになって何か叫ぶと、次の札束をテーブルに叩きつけた。
その時の「パシッ!」という威勢のよい音を聞いて、彼はカジノではなくメンコのほうが強いのではないかとぼくは思った。
松井政就
'08.9.17
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松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
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