Vol.279 天才悪役の危機 〜朝青龍は復活するか〜
ご存じの通り横綱朝青龍が休場した。
初日に見て、左ヒジの調子が悪そうだと思い、心配になって連日国技館に応援に行っていた。
相撲が「神事」であることはまさにその通りである。しかし善人だらけ、聖人君子だらけの相撲だとしたら面白いだろうか? 相撲が神社の境内だけで行われ、娯楽として見せないならそれでいいが、今は現に娯楽として「スポーツ性」も含まれた存在となっている。完全なスポーツではないが、スポーツ性があるから面白い。だからみなが応援するし相撲も残っていける。これは協会だって内舘牧子だって否定しないだろう。世間が悪者扱いしようが、朝青龍のような異端児がいるからこそ今の相撲が面白いことは事実である。
プロレスだって、もの凄いお人好しが役割として悪役をやっている。そういう人を作り出さないと盛り上がらないからだ。しかし朝青龍の場合、誰もそうしろと頼んでないのに自発的に悪役をやっている。しかも(少なくともつい最近までは)無敵の強さだった。相撲ファンや協会にとっても、これほどありがたい存在はなかったはずだ。
くどい前置きになったが、 その横綱が危機なのだ。
8日目に、かかとが土俵の外に着いたかどうかを巡る微妙な判定では、美保ケ関審判部長が出たと判定したのだから仕方がない。増位山というくらいだから、麻酔に掛かっていたのかとも思ったが、そんなことを言って訴えられてもツマラナイので黙っていた。
問題はあくる日だった。
目の前には、かつて見たこともない朝青龍の姿があった。土俵入りに向かう花道の奥にいる時から、目が赤く充血し、土俵入りの際も目を伏せる仕草があった。きっとヒジも相当痛かったのだろう。腕を動かす際も、顔を何度もしかめていた。それに過去の朝青龍から必ず感じられた圧倒されるようなオーラが全く消えてしまっていた。
もしかして最後の土俵のつもりで上がっているのではなかろうか。
彼の目を見てそんな怖れを抱いた。
松井政就
'08.9.27
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