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Vol.290 やはり奇跡の方法だった 〜リンゴとニンジンで蘇った体〜
菊花賞がゴールを迎えた時、隣のオジサンは馬券を破り捨て、「生きいればいつかは勝つ」と言い残して階段を降りていった。
「生きてさえいればいつか幸せに巡り会える」と、杉良太郎は『すきま風』で唱っているが、それに勝るとも劣らぬ独り言を残したあのオジサンは、なぜか最後まで勝てないような気がした。
ところで、菊花賞を前にした先週金曜日に、約5年ぶりの健康診断を受けた。ぼくは自営業なので、サラリーマンのように定期的な健康診断などない。生きていればいつか大仕事をやってのける自信はあるが、死ねばパーだ。
というわけで一念発起してちゃんとした健康診断を受けてみた。
その結果が昨日出た。
恐る恐る診察室に入っていくと、髭を(たぶんお金も)蓄えた医者が、
「何か最近、摂生しましたか?」
と訊いてきた。
来たか、と思った。やはり悪い知らせに違いない。こんなことなら秋華賞ではムードインディゴを2着にした3連単も押さえるべきだったと深く後悔しながら、
「何か問題ありましたか?」
と聞き返した。
すると医者はぼくを見て、
「珍しいほどの健康体です。全ての数値も完璧です」
嘘かと思った。なぜなら、以前の検査では、色々と数値がオーバーしていて、このままでは危ないと脅されていたからだ。
「ホントですか? もうすぐ死ぬかと思っていたんですが」
「冗談でしょ。何の問題もありませんよ。最近、特に努力しているようなことはありますか?」
「えーと、競馬の研究を……」
「そうじゃなくて、健康のためにですよ。何か摂生しているとか?」
朝飯をやめ、その代わりにリンゴとニンジンをすり下ろしたジュースを毎朝飲んでいる(Vol.238)ことを言おうと思ったが、気まぐれで、「とくにやってません」と嘘をついておいた。あの方法は、やはり奇跡の方法だったのだ。
松井政就
'08.10.31
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松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
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