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Vol.296 浅草のヤクザ映画館 〜もう一度見たい女優安芸晶子(市地洋子)〜
競馬がハズレた腹いせに、浅草のヤクザ映画館に入った。ちゃんとした名前は名画座なのだが、ヤクザ映画ばかりやるのでヤクザ映画館と呼ばれている。
その日は平井和正原作の『狼の紋章』をやっていた。志垣太郎主演で相手役が安芸晶子、そして敵役が映画初出演(たぶん)の松田優作というファンにはたまらない映画だ。安芸晶子は後に市地洋子に芸名を変え、ミラーマンなどにも出演していた美人女優だが、その後姿を消し、マルベル堂にも写真がないほど姿を見ることができない。(東映さん、出してください!)
<狼の紋章>
夢中になって見ていると、いよいよ志垣太郎扮するウルフと松田優作の死闘のシーンにさしかかった。その時、後方の席から「ふざけんじゃねーぞ!」と怒鳴り声が飛んだ。「うるせえって言ってるんだ!」
おっさん同士がケンカを始めたのだ。
「何だてめえ! ブッ殺すぞ」
「何だと〜。よし、外に出ろ!」
「アンタだけ出ろ」
「お前に出ろと言ってるんだ!」
「アンタが出ればいいだろ」
「てめえ、おちょくってんのか!」
すると他の席から怒鳴り声が飛んだ。「うるさくて映画が聞こえないじゃないか!」
幻の女優はすでに脱ぎ終わり、クライマックスは終わっていた。悔しいのでもう一度見ようと思い、次の上映まで席で待つと、始まったのは『男はつらいよ』だった。
松井政就
'08.11.19
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松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
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