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Vol.298 府中での出来事
贔屓にしている落語の師匠が府中の食堂に入り、後輩たちから「ご苦労様でした」とねぎらわれ、丸坊主の頭をかいていると、食堂の店主が神妙な顔つきで近づいてきて「おつとめ、ご苦労様でした」と頭を下げたらしい。
出所者と間違われたのだろう。
随分前だが、ぼくは府中競馬場のすぐ近くにアパートを借りていた。平日の夜ともなると競馬場の近くはひっそりしていて人通りはほとんど無い。平日ならば馬もいないし、周囲に民家もないので大丈夫と判断し、競馬場の壁に寄りかかってアルトサックスの練習をしていた。夜中にプ〜と吹くサックスは最高で、自分が上手になったような気がした。
練習を始めて二〜三日たった頃、突然パトカーがやってきてぼくを捕まえた。
「競馬場から変な楽器の音がすると通報があった」
と言うのだ。何かの法律違反かとおまわりさんに尋ねたが、そうではないという。じゃあ、いいじゃないかと言うと、「あまり他人に迷惑をかけるな」と言われた。
翌日も練習しているとまたパトカーが来てぼくをつかまえた。
「また通報があった」という。
面倒臭いのでぼくは競馬場の横で練習するのをやめ、翌日から大國魂神社に場所を移した。するとサックスを吹き始めて5分もたたないうちにおまわりさんがやってきて、「またお前か!?」と口を尖らせた。
「神社の境内から変な音楽が聞こえてくると通報があったんだ」
上手ならば通報されなかったのかもしれない。
松井政就
'08.11.24
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松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
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