|
Vol.319 オヤジの威厳 〜車内を転がる空き缶〜
仕事先に行く途中のお昼過ぎ、山手線に乗った。
何事もなく電車が動き出し、スピードがアップするにつれて「コロコロ〜」という音がした。
シートの間の通路をコカコーラのアルミ缶が転がり始めたのだ。赤い空き缶は車内を進行方向と逆に転がっていって、女子高生の足に当たって止まった。
「うぜえなー」
女子高生はその空き缶をけっ飛ばした。するとやや斜めに転がり始め、禿げたサラリーマン(たぶん)の靴に当たって止まった。サラリーマンは空き缶を蹴ったりはせず、席を立って移動していった。
その対応を見て、いかにもサラリーマンらしい事なかれ主義だと感じていると、止めるものが無くなった空き缶は再び転がりはじめ、今度は男子高校生の足に当たった。
「邪魔くせえなー」
男子高校生は空き缶を別の方向に転がしたのだが、その先にはなんと眼光鋭いオヤジがいた。その顔をみた10人のうち、9人はヤクザだと思うだろう。高校生がしまった!という顔をした。
その瞬間、オヤジは黙って片足を上げ、それを豪快に下ろして空き缶を踏み潰し、何事無かったかのように腕組みした。オヤジに後光が射したように見えた。
松井政就
09.3.10
|
|
松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
|
|
|