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Vol.321 離婚理由 〜面倒臭い夫〜
昔同じ職場だった女性から「離婚したから飲もう」と電話が来た。
他人が離婚しようがあまり興味はないのだが、呼ばれたということは話を聞いてほしいということだろう。出かけると案の定、本人から勝手にしゃべり始めていた。
離婚のわけは、別れた夫が面倒臭い人だったからだという。
どういう所が面倒臭いのかと聞くと、「家が火事になるという強迫観念」に駆られていて、ガスやストーブならまだしも、電化製品が発煙発火することまで年がら年中恐れていたのだという。
そんなもの、当人に勝手に心配させておけばいいじゃないかと思ったのだが、話によればそんなレベルではなかったようだ。
出かける時、家じゅうの家電製品の電源コードを、全てコンセントから抜いていたというのだ。夫婦共働きのため日中は家に誰もいない。その間に電化製品が火を噴いたら大変だといって、元夫は毎朝家じゅうのコンセントを抜いて回ったそうなのだ。
「どうしてそんな面倒臭いことするんだろうね。 コンセントなんかいちいち抜かないで、電源のブレーカーを落とせば一回で済むじゃないか」
そんなぼくの意見を無視し、彼女は離婚を決断した最大の事件について話した。
ある日仙台旅行に行く途中、新幹線の車内でドラマの話になり、「今週の分は見られない」と元夫が言ったらしい。そこで彼女は「ビデオ予約してきたから帰ったら見られるよ」と言った。
みるみる夫の顔が変わったという。ビデオが火事になったらどうするんだと青ざめ、郡山で下り、ビデオのコンセントを抜くため東京へ戻ってしまったというのだ。
「じゃあ、それまでビデオ予約はどうしてたの?」
「その時間はどちらかが家にいるようにしてたの」
そりゃー面倒臭い! と思った。
松井政就
09.3.21
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松井政就(まつい・まさなり) 作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 『経済特区・沖縄から日本が変わる』 『ディーラーホースを探せ』(光文社) 『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。
http://tjklab.jp/ |
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