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Vol.377 上野の靴屋 〜今年の初ウソ〜
競馬に負けた後、上野を歩いていたら、形のいいブーツが売っていた。
「試し履きしてもいいですか?」
「いいですけど、女物ですよ。それにサイズが23です」
じゃあいいや、と立ち去ろうとすると「こちらはいかがですか?」
出してきたのは男モノのブーツ。さっきのブーツと似た形で、履いてみたところ全然違和感がない。
「これはいい」
「そうでしょう!4万8000円です」
「そりゃー無理だ。競馬に負けたばかりでお金がないんだ」
「わはは。では4万5000円にならお負けしますが」
「負けるなんて言葉は聞きたくないんだ」
靴屋を去って近くの喫茶店に行き、「ブレンドください」と言うと、「すみません、コーヒー終わっちゃったんです」と言われた。
コーヒーが終わることなんかあるのか?と思いながら、「じゃあ、紅茶でもいいや」と言うと、「すみません、もう閉店なんです」
だったら最初からそう言えよと毒づき、知り合いの猫にまたたびをやりに行き、町を一回りして引き返してきたところ、うっかりさっきの靴屋の前に来てしまった。
店員はぼくを見て、買うために戻ってきたと思ったのか、いきなり「ありがとうございます」と話しかけてきた。
まずい展開だと思ったが、回れ右をするわけにもいかない。どうすればいいのかわからず、困った末、
「その靴、前に買ったことを思い出したんです」
と、見え透いた嘘をつき、店員の白い目に耐え、通り過ぎた。
松井政就
'10, 1, 11
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。長野県会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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