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Vol.381 女物の靴下
京都牝馬Sが当たり、これでバンクーバーに履いていく新しいブーツを買おうと思っていると電話が鳴った。
「今、どこにいる?」
糖尿病の部長だ。
いつものことで、どうせ大した用事じゃないだろうと思い、「どこにもいない」と答えると、「オレをバカにしているのか?」と怒ってしまった。
これ以上続けて高血圧に障るとよくないので、そこから先は普通に話し、神田で落ち合った。
暮れまでは高そうな服だったのに、この日はずいぶん普通の格好なので、どうしたのかと聞くと、金がないから上から下までユニクロだという。
しかも色んなワケがあって奥さんに取り上げられたキャッシュカードをなかなか返してもらえず、昼飯も会社の部下に奢ってもらっているらしい。
トンデモナイ上司を持つと部下もタイヘンだと同情したが、部下が上司にメシを奢るとは聞いたことがない。
「バカに気前がいい部下だな。どんな弱みにつけ込んでいるんだ?」
「人聞きが悪いな」
歩きながら話をするが、腹が減った、奥さんと愛人がモメている、ラーメンの汁を飲んじゃいけないと医者に言われたといった、何度も聞いた話ばかり。
きっと話し相手が欲しかったんだろうと思い、歩きたいままに、ずるずると散歩に付き合った。
そうするうちに洋服屋に差し掛かると、部長はワゴンの前に立ち止まり、女物の厚手の靴下を買った。
「高いブランド品なんかより、こっちのほうが喜ぶんだ」
金がなくても彼はマメだ。
松井政就
'10, 2. 1
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。長野県阿智村会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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