松井政就の週刊日記 『よく遊び よく賭けろ』 |
Vol. 384 鳴りやまない喝采 高橋大輔 銅メダル |
バンクーバーオリンピック現地レポート(2) 男子シングル フリー〜 ショートプログラムで上位3人が1点差以内という熾烈を極めた男子シングル。試合前の会見で、4回転ジャンプを巡ってプルシェンコとライサチェックが舌戦を繰り広げたが、高橋は自然体だった。 4回転に挑戦して、成功しなくても、その後の演技をまとめ、いま持てるものを全て見せる。その事に高橋は集中していた。安全策を講じれば大崩がないことはわかっていても、あくまで自分としての最高を目指した。 <試合開始前 関西大学の応援団が高橋と織田にエールを送る> 先にアメリカのライサチェックが、4回転を一度も跳ばず、無難な3回転でノーミスの演技をしていた。ライサチェックを越えられるかどうかはやはり4回転 に懸かった。そして高橋は冒頭から果敢に4回転に挑み、着氷に失敗して激しく転んだ。 会場から悲鳴に似た声が響き渡った。この時点で金メダルは消えた。 すると起き上がって演技を再開した高橋に、会場からは拍手がわき起こった。続く3回転ジャンプ、コンビネーションジャンプは持ち味通りに鮮やかに決め、 演技はいよいよ見せ場のステップ。重圧から解き放たれたように、高橋らしい華麗なステップを踏んでいく。手拍子がリンクにこだまする。 高橋の顔は笑顔で満ち溢れていた。 ショートプログラムの時は見ている自分が緊張していたが、フリーは実に晴れやかな気持ちで見られた。それは多分、高橋選手自身が晴れやかな気持ちで滑っていたからではないかと、ぼくは思った。 そしてフィニッシュ。 拍手が鳴りやまない。 再起不能といわれた怪我から復活しての、日本男子選手初の五輪銅メダル獲得。その輝かしい瞬間を共有できたことは大変な幸せだった。 高橋大輔選手、銅メダルおめでとう! <日本人男子初のフィギュアスケート銅メダル> <観衆に応えるメダリストたち> なお、難度の高い4回転を避け、難度の低い構成で無難にまとめたライサチェックを優勝させたジャッジには失望した。 いかに芸術的スポーツといっても、フィギュアがスポーツであるのなら、高難度の4回転を2度も成功させたプルシェンコを正当に評価してほしかった。 もちろん、ライサチェックの演技もノーミスで素晴らしかったが、フィギュアの醍醐味は無難にノーミスで滑ることではないはずだ。 今回のジャッジ結果が、フィギュアの技術的向上の妨げにならないことを願いたい。 表彰式でいったんわざと金メダルの台に上がってから銀の台に下りたプルシェンコも、きっとそれが伝えたいメッセージなのだろうと思う。ぼくにとって今回の五輪は、高橋君が銅メダルを獲得し、プルシェンコが銀となった五輪として記憶され、いずれ金メダルがだれだったかを思い出せなくなるような気がする。 松井政就 '10, 2. 19(バンクーバー) |