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Vol.396  オロオロする男
夕方、会議に向かう途中にホテルのトイレに寄ると、大きな花束を持った男が洗面所でオロオロしていた。見るとズボンのチャックが壊れてしまい、目の色を変えて直している最中だった。
おしゃれな格好をしていたからきっとデートの前だろうと思い、一瞬、気の毒に思いかけたが、いかにも札束でビンタしそうな、見るからに金持ちそうな男だったので、「ざまあみろ」と、気持ちを切り替えてその場を去った。
さて、と入った会議は死ぬほどつまらず、誰も意見を言わない。説明者がしゃべっているのに、みんな、配られた資料ばかり見ている。
たまらず、説明者が
「何か質問はありませんか？」
と言うと、一番前に座っていたオジサンが手を挙げた。
「×××はどうなんですか？」
「それ、たった今説明しましたが……」
オジサンはオロオロした。
説明者がもう一度、「何か質問はありませんか？」というので、ぼくが手を挙げ、
「質問はありませんが、意見があります」
と言った。
説明者はオロオロした。
しかし大した意見でないことがわかるとホッとしたような顔で説明してくれたが、その説明がバカに長く、やはり、余計な意見を言ってはいけないと思っているうちに会議は終了。
来る時と同じ道を帰る途中、さっき立ち寄ったホテルのトイレをもう一度借りに行くと、例の金持ちがまだズボンのチャックを直していた。
さすがにかわいそうになり、「大変ですね」と声を掛けると、「俺はもうダメだ」と弱音を吐いていた。
松井政就
'10, 4. 9
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松井政就（まつい・まさなり）
作家。長野県阿智村会地小学校早退。
主な作品：
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』（講談社プラスアルファ新書） ★『賭けに勝つ人 嵌（はま）る人』（集英社新書） ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ１億円以上！なぜ？』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』（以上、光文社） ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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