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Vol.424 ボヤの夜の恵み
昨夜、うちのマンションで真夜中に火災警報が鳴り響いた。
ぼくの部屋の外に警報機がついているので、あまりの音にびっくりし、
「もしも牛だったらお乳が出なくなるな」
と思った。
だが、そんな悠長なことは言ってられないので、とりあえずTシャツは着て(一応パンツも)逃げ出すと、一つ下の階に住んでいる20代の女性が水びたしの髪のまま逃げ出してきた。
たぶんシャワー中だったのだろう(確かめてはいないけど)。
顔見知りだったせいか、彼女は恥ずかしそうにぼくの後ろにさっと隠れた。
すぐに警備会社がスッ飛んできて、火元の部屋に直行。
ボヤらしく、大事には至らなかった。
状況を見守る間じゅうずっと、びしょぬれの彼女はぼくのうしろにピッタリ貼り付いたまま。香水なのかシャンプーなのかわからないが、とにかくいい匂いがしてきた。
ドキドキして振り返ると目が合った。
彼女は視線を泳がせ、最終的に下を向き、ぼくに半歩近づいた。
ボヤの思わぬ恵みだった。
松井政就
'10. 7. 28
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。長野県阿智村会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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