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Vol.483 甘い生活 〜それぞれの工夫〜
ヨーロッパの取材から帰ってきた。
今回は荷物が多かったので、レンタルのスーツケースを借りた。非常に便利で、帰国後に中身を出し、すでにレンタルショップに返却した。
ところが今ぼくの部屋には海外旅行用のでかいスーツケースが一つある。
糖尿病の部長のものだ。
ぼくが帰ってくるなり、部長はスーツケースをゴロゴロ引いてやってきた。
「一週間預かってくれ」
「どうしたんだ?」
「今週から出張に行ったことになっているんだ。頼む!」
彼女と一週間甘い生活を送るのだという。
文句を言いながらも断り切れず、つい預かってしまった。
「中に入っているもの、好きに使っていいから」
開けてみたらパンツとかシャツとか、キレイに畳んで入れてある。細君が用意したのだろう。その気持ちを思うと涙が出てくるが、ぼくにはどうしようもない。
「でも、パンツとか、キレイなまんまで帰ると怪しまれるだろ?」
「それもそうだな」糖尿病の部長は少し考えると、「そうだ、お前、代わりに履いといてくれないか?」
「バカ言え。お前のお古なんかいやだよ」
「サウナじゃ平気じゃないか」
「あれはな、誰のか分からないから平気なんだ。前に履いてたのが隣のゲップしてるオヤジだと思ったら嫌だろ」
「じゃあ、すごい美人のパンツだと思ってくれ」
「思えないよ」
適当にくしゃくしゃさせといてくれとか何とか言って部長は帰っていった。
彼はもう少し工夫したほうがいい。
松井政就
'11. 10. 5
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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