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Vol.499 年を重ねて磨かれるもの 〜経験豊富な下町おじさん〜
人形町をたまり場にしている競馬研究会があり、下町の会社で働くおじさんたちが毎週末に集まっている。
要するに、酒を飲んでメシを食い、競馬の話をするだけだが、先日その会に激震が走った。会のリーダーをしている二人が急に工場(こうば)を辞めることになったのだ。経営が苦しくなった会社から合理化と称して年齢順に退職を迫られたのだという。専門的な技能を持つ彼らが抜けて現場は大混乱。しかし脳みそが凍り付いている人事部にはそれがわからないらしい。
会の仲間は激怒し、二人の退職撤回を求めて会社に掛け合いに行きそうな勢いなのだが、当の二人は苦笑い。
「守衛所で『誰だ?』と聞かれて『競馬仲間』じゃ話にならないよ」
そんな余裕があるのも、まずT谷さんは会社を離れれば定期的にライブも行うセミプロのミュージシャン。CDも出しているし、常連の女性ファンもいる。先日はアルゼンチンまでこっそり連れだってタンゴを聴きに行ってしまうなど、今でも青春真っただ中。
一方のE田さんも女を飲みに誘って断られたことがないというほどの色男。しかし教育も熱心。勉強ばかりしていたら民主党議員のような人間になってしまうと、三人の子供には毎日きつい畑仕事をやらせた結果、子供たちは残った僅かな時間で集中して勉強する癖がつき、学習塾にも一度も通わず揃って一流大学に受かってしまった。
T谷さんもE田さんも年齢を重ねるごとに人をソノ気にさせるのがうまくなり、今がまさにピークの状態。傾きかけた会社にはそんな人こそ必要だと思うのだが……。
そう言えば、オグリキャップで有名な瀬戸口勉調教師も晩年になるほど名伯楽ぶりが発揮された。勝ち星リーディングをひた走っていた全盛時に「定年」ということで厩舎解散を余儀なくされた際にはファンから惜しむ声が相次いだ。
中年の星と言われたカンパニーもそうだ。普通ならとっくに引退している8歳になって天皇賞(秋)とマイルCSの2つのGTを優勝。人でも馬でも年を重ねないと磨かれないものがあるということなのだろう。
松井政就
'12. 1. 31
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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