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Vol.501 ピンチに見せかけた大チャンス!
〜岩波書店 絶妙な応募条件〜
夕刊フジ等で報じられた通り、老舗出版社の岩波書店が来年度の定期採用で「岩波書店著者の紹介状または岩波書店社員の紹介」を応募条件とした。
それが明らかになるや小宮山洋子厚生労働大臣が目を吊り上げ、けしからんと言わんばかりに会見している様子がNHKのニュースでも報じられた。就職を前にした学生の間でも「コネ採用なんてズルイ」「不公平だ」という不満の声が広がっている。
こんな世間の反応にぼくは首をかしげてしまった。
なぜならこの話を聞いた瞬間、ぼくは「さすが岩波書店!」と膝を打ってしまったからだ。ふざけて言うのではない。いい学生を採用する方法としてこの手があったかと唸らされたのだ。
出版社なんて一年の採用はほんの数人。かつては手書きで履歴書を書き、写真を貼るなど応募には手間が掛かったから、本気で入りたい学生しか申し込まなかった。しかしネット時代になり、日本中から無闇やたらに応募が増え、その事務作業だけでもてんやわんや。
そもそも出版社は少数精鋭で、そんな事務作業に掛かりきりになるほど暇ではない。何らかの方法で候補者を振るいにかけなければならないのだ。
20年ほど前、申し込みが殺到した某テレビ局は抽選で人数を絞った。学生からは「一生を決める就職を抽選で決めるとは何だ」と文句が出たが、関係者の言い分は「抽選で外れるような運の悪い人には来てほしくない」とのことだった。
それはそれで一理あったが、岩波のケースは深く考え抜かれたものだ。とくに「著者の紹介状」でOKとしたことが最大のミソ。社員と知り合うことは難しくても著者ならば簡単だからだ。気に入った本を読んで著者に感想文を送り、紹介状をお願いすればいい。岩波の著者はマジメな人が多いから、送られてきた内容が素晴らしければきっと書いてくれるはず。
そこに今回の狙いがある。
出版社の仕事は一見派手に見えても地味でキツイ。他社(=他者)に先んじて世の中をあっと言わせるため、ひらめき・機転・行動力が必要だし、時には作家を説得するような泥臭い仕事もしなければならない。
応募に際して著者から紹介状をもらえるかどうかなんて、まさに編集者としての能力テストそのものだ。
つまり岩波書店の出した条件は、アホな学生にはピンチにしか見えないが、勘の鋭い学生にとっては大チャンスなのだ。
松井政就
'12. 2. 9
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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