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Vol.506 異常事態 〜高崎市のワイセツ事件〜
「花粉症で酒がまずいから安い店にしよう」
待ち合わせ場所に現れた糖尿病の部長は言った。
どういう意味かわからないが、アルコールは花粉症をひどくさせると新聞にも出ていたし、たまには軽く済ませるのもいいと、付近を歩き回っていると、いかにも安そうな店があった。
「ここにしよう」
戸を開けると客は誰もいない。
「もしかして失敗じゃないのか? こんなにガラガラじゃ何か問題がある店かもな」部長は眉を寄せ、後ずさりしようとした。
「まだ6時じゃないか。しかも平日だ。みんなまだ働いているんだよ」
「じゃあ、大丈夫だ」
「すいませーん、ホッピー2つ」
するとこれ以上曲がらないというほど腰の曲がったおばあさんが出てきたので、死なれては困ると思って自分で運んだ。
飲み始めると、おばあさんがテレビのスイッチをつけようとするのだが、腰が曲がり過ぎていて、スイッチになかなか手が届かない。骨でも折っては大変だと、ぼくがスイッチを入れると、AIJ投資顧問(株)が2000億円もの年金資金を、デタラメな投資でゼロにしてしまった事件が流れてきた。画面には年金資金消失とテロップが出ていた。
糖尿病の部長はホッピーを勢いよく飲み、「だから言っただろ。年金なんかもらえないんだ」
「そういう話じゃないってば。年金資金を不正に無くした事件だよ」
「じゃあ、お金は返ってくるのか?」
「来ないだろうな」
「それみろ。もらえないことに変わりはないんだ」
もの凄い論理なのになぜか反論できないと思っていると、違うニュースが流れてきた。高崎市の交通課に勤務する巡査が、午前3時ごろ自転車に乗っていた21歳の女子大生を押し倒してワイセツに及んだというのだ。しかもその1時間後の午前4時にも、別の場所で19歳の女子大生を襲ってワイセツ行為をしていたというのだ。
「トンデモナイ話だ!」糖尿病の部長は目の色を変え、ホッピーをテーブルにドンと置いた。
「そうだよな」
「間違っている!」
「確かに。警官がこんなんじゃ、危なくてしょうがない」
「そうじゃない。何で20歳の女子大生が真夜中の3時に自転車に乗ってるんだ? しかも2人もだぞ」
異常事態だと繰り返しながら、糖尿病の部長は興奮気味にホッピーの中身をおかわりした。
松井政就
'12. 3. 27
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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