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Vol.507 帰国便のトンデモおやじ
マカオに行ってきた。
多分だれも信じてくれないだろうが、朝から晩まで現地の仕事で忙しく、最終日の夜以外、ほとんどカジノをしなかった。仕事は目一杯できたのだが、いつものようなカジノ一色ではなかったので、帰国したばかりなのに、すぐにでもマカオに戻りたい気分だ。
それはさておき、大きなトラブルも起きず、無事帰国便に乗った。ここまでは順調だった。
ところが飛行機が離陸し、シートベルト着用のサインが消えた途端、機内に甲高い男性の声が響いた。斜め後ろの席のおじさんが女性客室乗務員を呼んだのだ。
乗務員がやってきて、「どうなさいましたか?」
おじさんは自分のマイレージカードを見せ、「チェックインの時、このマイレージカードが使えなかった。どうしてなんだ?」
乗務員はカードを手に取り、「これは当社のカードではございません」
「だったらどうしてダメなんだ」
「違う航空会社になっておりまして・・・・(説明)・・・・」
「どうして違う会社だとダメなんだ」
機内に不穏な空気が漂いはじめたため、別の乗務員がやってきておじさんに説明した。10分以上にわたる説明の末、おじさんはようやく引き下がり、乗務員もやれやれという表情で戻っていった。
しばらくして機内販売のアナウンスがあった。「使用できる貨幣は香港ドル、マカオパタカ、米ドル、またはクレジットカードで、日本円は使用できません」という説明があった。
すると、さっきのおじさんがまた客室乗務員を呼んだ。
乗務員がきて「どうなさいましたか?」
「どうして日本円は使えないんだ?」
「機内販売は・・・(説明)・・・となっておりまして」
「どうしてそうなっているんだ?」
「ですから・・・・(説明)・・・となっております。ところで、お客様、どちらの商品をお求めでしょうか?」
「何も買うつもりはない。どうして日本円が使えないかだけ知りたいんだ」
また別の乗務員がきておじさんに説明。引き下がるのに20分以上も掛かっていた。
その後機内食が出され、食べた後はみんな順番に便所に行き、ようやく機内に平和が訪れたと思った頃、例の甲高い声が響いた。
また例のおじさんが乗務員を呼んだのだ。
乗務員がやってきて、「どうなさいましたか?」
「新聞を持ってきてくれ」
「どちらの新聞がご希望ですか?」
「朝日新聞に決まってるじゃないか」
「かしこまりました」
渡された新聞をおじさんはおとなしく読み始めた。乗務員もほっとした表情で戻っていった。
おじさんは順調にページをめくる。ぼくはその様子を固唾を飲んで見守った。今度はモメずに済みそうだ、やれやれだと思った瞬間、ページをめくる手が止まった。
嫌な予感がした。
おじさんはまた客室乗務員を呼んだ。
「どうなさいましたか?」
「何だ、この新聞は!」
「どういったことでございましょうか?」
「こんな記事、既にオレは知っているぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、ぼくはそのクソおやじをブン殴りたい衝動に駆られ、それを抑えるのに必死だった。
松井政就
'12. 4. 27
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
主な作品:
★『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社プラスアルファ新書) ★『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書) ★ 『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』 ★『ディーラーホースを探せ』 ★『経済特区・沖縄から日本が変わる』(以上、光文社) ★『神と呼ばれた男たち』等。 作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスアドバイザー、大学での講師などもたまに務める。
http://tjklab.jp/ |
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