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Vol.515 御徒町の天才少年
先週末、糖尿病の部長から買い物につきあってくれと言われた。
御徒町で落ち合うと、街では夏物大放出のセール中。部長はメタボ解消のため、ランニング用の運動靴を買いたいという。
駅を出るとロンドンやアメリカといった戦後の辺境精神を思い出させる名前の店が立ち並んでいた。しかしセールとあって店内は客であふれかえり、とても入れない。 あたりを見回すと、店頭のワゴンにスニーカーが山積みになっていたので、とりあえずそこから探すことにした。
部長はワゴンをのぞき込み、「27はあるかな?」
「そんなに大きな足だっけ? 今履いているのは幾つ?」
「26だよ」
「じゃあ、26でいいんじゃないか?」
「いや、大きめのでいいんだ」
「でも27じゃ大き過ぎるだろ」
部長はバカにするような目でぼくを眺めた。「お前、知らないのか? 運動靴は大きいくらいのほうがいいんだ」 そして、そばにいた店員に向かって、「ね、そうだよね?」
「は?」
突然話かけられた店員はポカンとしたが、さすがに抜け目なく「サイズは幾つですか? お探ししますよ」
「27がいいんです」
「奥のほうにあったと思います」
店員はワゴンに手を突っ込み、一足を引っ張り出し、「こちらはお安いですが、スポーツにも普段にも使えて一石二鳥ですよ!」
店員が誇らしげに言うと、父親に手を引かれてそばで見ていた少年が言った。
「お父さん、一石二鳥ってどんな鳥?」
2012. 9. 5 松井政就
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
雑誌記者、AVメーカーの事業プランナー、カジノプレイヤー、大学の講師、国会議員のスピーチライターなどの経歴をもつ。
・新聞・雑誌の連載に『競馬と国家と恋と嘘』(夕刊フジ)、『神と呼ばれた男たち』『パラダイスを探せ』『羅紗の女神』ほか。
・単行本に『賭けに勝つ人嵌る人』(集英社)『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社)『No.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』『経済特区沖縄から日本が変わる』『ディーラーホースを探せ』(光文社)『WHY
SHE IS SPECIAL?』『絶対に彼女には読ませたくない本』などがある。
http://tjklab.jp/ |
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