松井政就の週刊日記 よく遊び よく賭けろ
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Vol.529 「先生、どうして人を殺しちゃいけないんですか?」〜中学生からの質問〜


 ぼくは
大学生だった20歳の時に塾の先生をしていたのだが、ある日授業中に、教えていた男子中学生から、「先生、どうして人を殺しちゃいけないんですか?」と質問された

 その男子は勉強もトップクラスで、議論も好きで、たびたびクラスメイトや先生をやり込めて得意がるところがあった。その子が、どうして人を殺しちゃいけないのかわからないから、理由を説明しろといってきたのだ。

 ぼくはこう答えた。
「理由なんかないんだよ」

「先生もわからないんじゃないですか? どう考えたって、人を殺しちゃいけない理由なんか説明できるわけないもん」

「理由はなくても、やっちゃいけないことが世の中にはあるんだ」

「理由がないんならやったっていいでしょ」 

得意げに言う姿を見て、このまま放っておいてはいけないと思った。
「ちょっと前に出ておいで」

ぼくは彼を黒板の前に立たせ、彼の両耳をつかみ、そのまま体が持ち上がるほど上に引っ張りあげた。

「痛い!痛い!」 彼は叫んだ。

「痛いか?」

「痛いよ!やめて!」

「痛くたって死にゃしない。でもな、殺される人はもっと苦しいんだ。お前はこれより痛くて苦しいことを他人からやられたいか?」

「やられたくない!絶対に嫌だ!だから早く手を離してよ!」

ぼくが手を離すと彼は泣きべそをかきながら、「ごめんなさい」と謝った。

 時代が今ならぼくは即刻クビになっただろうが、当時は生徒からも親からも文句は来なかった。

 今回、大阪で教師から暴力を受けた生徒が自殺する事件が起きた。
 こうした事件があるたび、20歳だったぼくが教育のつもりでした行為は、果たしてどうだったのかと考えてしまう。

 2013. 1. 17 松井政就


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本人像 松井政就(まつい・まさなり)  
作家。会地小学校早退。
雑誌記者、AVメーカーの事業プランナー、カジノプレイヤー、国会議員のスピーチライターなどの経歴をもつ。
新聞・雑誌の連載に『競馬と国家と恋と嘘』(夕刊フジ)、『神と呼ばれた男たち』『パラダイスを探せ』『羅紗の女神』ほか。
単行本に『賭けに勝つ人嵌る人』(集英社)『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社)『No.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』『経済特区沖縄から日本が変わる』『ディーラーホースを探せ』(光文社)『WHY SHE IS SPECIAL?』『絶対に彼女には読ませたくない本』などがある。
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