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Vol.538 工事現場のアンちゃん
雨の中、駅ちかくの公衆便所に入ると、ニッカポッカ姿のアンちゃんが入り口でタバコを吸っていた。
「すみません、1本吸ったら出ていきますんで、雨宿りさせてください」 アンちゃんがすまなそうに言った。
「いいですよ。どうぞゆっくり吸ってください」
「ありがとうございます」
ぼくは用をたしながら、「どこの工事ですか?」
アンちゃんは道の向こうを指さし、「3丁目の水道管です。すぐそこでやってます」
「この雨じゃ大変でしょ?」
「そーなんスよ。みんなびしょびしょですよ」
「タバコくらい吸いたいですよね」
「でも、やたらに吸うと捕まっちゃいますから」
「外でも吸えないなんて窮屈な時代ですね〜」
「そーなんスよね〜。 携帯灰皿使ってても罰金取られますからね」
「他人に迷惑かけないよう気をつけてればいいと思うんですけどね」
「オレもそう思うんスよ。そのために携帯灰皿売ってんじゃねーのかって。携帯灰皿売ってるくせに、それ使って吸ったら罰金取るなんて、国家的詐欺じゃねーかって思うんスよ」 アンちゃんは2本目のタバコに火をつけた。
「最近、タバコ吸う人に冷たいですよね」
「まるでイジメっスよ。犯罪者を見るような目つきで見られますからね」
「ただでさえ値上がりして、お金も取られてるのに」
「そーっスよ。せっかく働いてもみんなタバコ代に消えちゃいますよ」
「値段の半分くらい税金でしょ?」
「そんなにっスか! こりゃーイジメられるのは合わんわー」
「むしろ感謝すべきですよね。たくさん税金払ってるんですから」
「そーっスよね!」
「雨だから風邪ひかないよう、頑張ってください」
「いやー、ありがとうございます!」
便所を出て駅前のキヨスクで東スポを買っていると、
「今さあ〜、すごい、いい人がいたよ。あんな人もっと増えてくれるといいのにな〜」
さっきのアンちゃんが大声で言いながら、工事の仲間と小雨の中を小走りに現場に戻っていくのが見えた。
2013.6. 11 松井政就
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
雑誌記者、AVメーカーの事業プランナー、カジノプレイヤー、国会議員のスピーチライターなどの経歴をもつ。
・新聞・雑誌の連載に『競馬と国家と恋と嘘』(夕刊フジ)、『神と呼ばれた男たち』『パラダイスを探せ』『羅紗の女神』ほか。
・単行本に『賭けに勝つ人嵌る人』(集英社)『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社)『No.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』『経済特区沖縄から日本が変わる』『ディーラーホースを探せ』(光文社)『WHY
SHE IS SPECIAL?』『絶対に彼女には読ませたくない本』などがある。
http://tjklab.jp/ |
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