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Vol.541 行き倒れた糖尿病の部長
猛暑のさなか、糖尿病の部長から「新橋で会おう」と電話がきた。
機関車の前で落ち合うと、「銀座に行こう」という。
「だったら最初から銀座で待ち合わせればいいじゃないか」
「だってここがわかりやすいんだ」
いざ歩き出すと汗が止まらない。こんなにたくさんの水分が体のどこにあったのかというほどの汗だ。部長のYシャツも汗でびしょびしょだ。
「だから最初から銀座にすりゃよかったんだ」
「うるせえ。しゃべると余計暑くなる」
ぼくは熱中症が持病のようになっているので、脱水になると大変だと思い、水を買って飲むと、部長は「そんなもの飲むから汗が出るんだ。サウナだと思って我慢しろ」
「あんなにサウナを毛嫌いしてるくせに」
「ごちゃごちゃうるせえな。あー、汗が出る」
「お前も水飲んだ方がいいぞ。糖尿病なんだし」
「あー、暑い。足も動かなくなってきた」
「大丈夫かよ?」
「何だかフラフラする。まるで八甲田山だ」
「あれは冬じゃないか」
2013. 8. 8 松井政就
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松井政就(まつい・まさなり)
作家。会地小学校早退。
雑誌記者、AVメーカーの事業プランナー、カジノプレイヤー、国会議員のスピーチライターなどの経歴をもつ。
・新聞・雑誌の連載に『競馬と国家と恋と嘘』(夕刊フジ)、『神と呼ばれた男たち』『パラダイスを探せ』『羅紗の女神』ほか。
・単行本に『賭けに勝つ人嵌る人』(集英社)『ギャンブルにはビジネスの知恵が詰まっている』(講談社)『No.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』『経済特区沖縄から日本が変わる』『ディーラーホースを探せ』(光文社)『WHY
SHE IS SPECIAL?』『絶対に彼女には読ませたくない本』などがある。
http://tjklab.jp/ |
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