大統領選挙の台風の目になっているのが不動産王のドナルド・トランプ氏だ。度重なる「暴言」や「差別発言」にもかかわらず人気は増 すばかり。
日本のマスコミは泡沫候補と笑っているがとんでもない。民主党の自滅により、トランプの勝つ可能性は大アリだ。
●トランプ氏とは何者か?
ニューヨーク市に生まれ、父親の後を継いで不動産業を営んでいたドナルド・トランプ氏は、1976年に当時破産状態にあったコモドアホテルを買収した。これをグランド・ハイアット・ホテルとして開業し大成功を収めたことが彼の不動産王としての始まりとなった。
その際、ニューヨーク市から40年間の免税措置を勝ち取るなどの政治力をすでに発揮しており、83年にトランプタワーを開業、88年にはプラザ・ホテルを買収するなど事業を拡大していった。
その後数多くの成功と失敗を繰り返してきたが、とりわけ知られるのは彼のワンマンなキャラクターだ。その特徴を生かしたテレビ番組で「You are fired!(=お前はクビだ!)」という決めゼリフを流行させた。
あまり知られていないが、実は彼は一度大統領選(2000年)に出馬したことがある(敗退)。その後自らを保守から革新へ、再び保守へ、そして無所属へと二転三転させながら結局共和党に戻り、今回の大統領選出馬となっている。
●なぜ「暴言」がマイナスにならないのか?
さまざまな暴言が注目されるトランプ氏。近年の政治家が「政治的に正しい」ことを意識するようになっていることを考えると、トランプ氏の言動は明らかに異質だが、それをトランプ氏の個人の暴言に過ぎないと捉えてしまっては事態を見誤る。
なぜなら、トランプ氏が一定の支持を集めることは、同じ考え方の国民がそれだけいることを意味しているからである。
現代のアメリカでは「政治的な正しさ」は今や政治家だけでなく一般国民にも求められ、誤解を恐れずにいえば自由にモノが言えない窮屈な社会になってきている。そこに風穴をあけたのがトランプ氏と言える。
●国民の“ホンネ”を代弁
アメリカはとかく"ホンネとタテマエ"が使い分けられている国である。
たとえばアンケートを取った場合、テーマによって、記名式と無記名式で大きく異なる結果が出ることでも知られている。
とりわけ人種問題など触れにくい問題ではその傾向が強いと言われる。
そこにホンネを代弁するトランプが現れ、無難な発言しかしない政治家に飽き飽きした国民の心をつかんだというわけだ。
●共和党が抱えるジレンマ
共和党として見た場合、今回の大統領選では大きな問題を抱えている。穏健派の本流ともいうべき有力な候補者がいないのだ。
アイオワ州で僅差の1位となったのはテッド・クルーズ氏である。これまでのところ、過激な発言のトランプ氏ばかりが厄介者であるかのようにメディアでは報じられてきたが、政治家としての素養では実はクルーズ氏のほうが問題があるという見方がある。
実際にクルーズ氏は、トランプ氏をさらに上回るような過激な発言を繰り返している。たとえば「ISIS(イスラム国)のいる地域を絨毯爆撃せよ」というような極論である。
●クルーズ氏はトランプ氏より厄介?
トランプ氏の発言は大袈裟であり、荒唐無稽なものもあるが、多くは支持者個人に向けて一種の「カタルシス(=安堵、鬱積した感情の解消)」をもたらすものである。
これに対し、クルーズ氏の発言は一歩間違えば国家間の紛争に直接繋がりかねない。
つまり共和党にとってトランプ氏も厄介だがクルーズ氏はもっと厄介というわけで、消去法としてトランプ氏が支持率を維持する可能性は十分に考えられる。
●民主党の致命的失敗
一方、民主党には致命的な戦略の失敗が見られる。
民主党は、候補者としてヒラリー・クリントン前国務長官を、党として決め打ちしているが、それまで無名で、しかも自ら「社会主義者」を名乗るバーニー・サンダース上院議員とほとんど支持率に差がない。
サンダース氏は「Enough is enough!(=もうたくさんだ!)」を合言葉に、従来型の政治にNOを叩き付け、改革を求める若者から圧倒的な支持を集めている。
これは前回のオバマ大統領がCHANGEをスローガンに本選で勝ったのと似ており、サンダースであればトランプに勝つことは間違いないだろうが、この失速をみる限り、ヒラリーではトランプに勝てないだろう。
しかし民主党は、大統領本選でトランプに勝てるサンダース候補ではなく、本線で勝ち目のないヒラリーを、その資金力や政治力をベースに、候補者として選ぼうとしている。
これは大統領選の戦略として致命的な間違いであり、このまま行けばトランプ大統領が誕生することになる。
2016. 1.10 松井政就
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