国会議員の不祥事が相次いでいる。
国会本会議を欠席して私的な旅行をしていた疑惑がもたれ維新の党を除名された議員。金銭スキャンダルで自民党を離党した議員。同じ自民党議員の妻の出産入院中に不倫をしていた議員などがあげられるが、彼らには「公募議員」という共通点がある。
こうした議員を生んだ背景には何があるのか?
日本の選挙制度の弊害からはじまった
「公募」という制度を説明するにあたり、まず触れておかなくてはならないのは日本の選挙制度が持つ弊害だ。
政治家とは、本来は資質や実行力や政策で選ばれなければならないが、日本では必ずしもそうした人ばかりが議員となっているわけではない。そのわけは政治の世界に参入する上で幾つものハードルがあるからだ。
「地盤」「看板」「鞄」
ハードルは3つに大別される。
第一が地元組織、つまり「地盤」だ。
選挙には選挙区というものがあり、候補者は選挙区内での票の取り合いになる。とりわけ衆議院の選挙区は「小選挙区」のため、戦いはかなり熾烈。地域に支持
者を多く持っているほど有利となる。その点で、一家が代々政治家をしてきた者は地元に強大な支持層を持つため圧倒的に有利と言える。
第二に知名度、「看板」だ。
現実問題として日本の選挙は人気投票の度合いが強く、打ち出した政策などより候補者の知名度で勝敗が決まるケースが多い。個人がよほどの知名度を持っている場合を除き、党など大きな組織の告知能力がモノを言うことになる。
第三に資金力、これは「鞄」といわれる。
現行の公職選挙法では選挙に立候補する際「供託金」とよばれる保証金の納入が必要である。国政選挙の場合300万円〜600万円と多額で、これは選挙が宣
伝や売名行為に利用されるのを防ぐことが主な目的とされ、一定の得票により返還されるが、一般人が立候補することへの大きな妨げとなっているのは事実であ
る。
「公募」は本来、議員の質の向上が目的だった
これら「地盤」「看板」「鞄」の3つを全て持つのは代々政治家という家が多いため二世や三世という世襲議員が増えるのは致し方ないともいえる。
当然のことながら世襲議員の中には有能で素晴らしい議員もいるが、一方で苦労せずに「地盤」「看板」「鞄」を引き継いだがため、モラルに欠ける言動をするなど問題行動を起こす人がいるのも事実だ。
むろん理由はそれだけではないが、主にこうしたことを背景として、広く優秀な人材を取り込むことを目的として「公募」制度が取り入れられた。
具体的にどのように審査されるのか?
具体的にどう審査されるのか。企業の採用でも人物評価は難しい。まして国の責任を担う国会議員となりうる人物の評価はさらに難しい。
それをどのように行っているのか、与党である自民党と野党第一党の民主党の例で具体的に見てみよう。
<自民党>
参院選公認候補「オープンエントリー」候補者募集要項参照
【応募内容】
(1)応募申請者情報(氏名、住所、学歴、職業、応募理由など)
(2)400字以内の論文(「日本の将来と私」または「自分のまわりの1億総活躍社会」のいずれか)
【審査方法】
(1)書類審査と面接を経てファイナリスト最大10人を決定。
(2)ファイナリストについて、党員および一般有権者によるネット投票による上位者を比例代表予定者とし、自民党選挙対策本部で公認決定
<民主党>
民主党候補者公募・第二弾【大補強2015】募集要項参照
【応募内容】
(1)応募用経歴書
(2)2,000字以内の小論文(「今の政治に対するあなたの反骨心」「志す政治家像とあなたの覚悟」「なぜ民主党を選ぶのか。あなたの力で民主党をどう変えるか」3つへの回答となる論文)
(3)「プロフィール・得意分野・どんなことをやりたいか」の3点をPRする90秒以内の動画
【選考方法】
書類選考・適性選考・面接試験で有資格者を決定。選挙区選定は別途ヒアリング
目立ちたがり屋を選ぶ危険性
以上のようなやり方で審査されるが、気になる点が1つ目に入る。
自民党の論文の条件だ。指定された文字数が400字以下。果たしてその文字数で指定されたテーマについてきちんと論じられるのだろうか? 400字といえば自己紹介で終わってしまう文字数である(※当コラムでさえ2,000文字以上を要している)。
少ない文字数で論じる場合、目を惹きやすいよう派手な言葉ばかりが使われる可能性があり、言葉を慎重に選ぶような人物より、一瞬で目を惹くような目立つ言葉を好む人物が評価されやすくなる危険性がある。
こうした選考方法では、地道にコツコツやるタイプより、人目を惹くのが上手なタイプが評価されやすいことは想像に難くない。
インターン制度の導入も検討すべき
企業の採用でもたった1回の面接で人間性を見抜くことは難しいが、企業の場合は一従業員であるのに対し、国会議員は強大な権力を持つ存在であり、企業の採用ミスとは比較できないほど責任は重い。
近年は企業の採用においても採用試験の一発勝負ではなく、それまでの活動を含めた継続的な人物像で評価する傾向も生まれてきているように、候補者の公募においても、自己申告された見栄えのよい人間像だけではなく、過去の活動も含めた総合的な評価で行われることが、高い資質と適性を持つ政治家の育成には大切だ。
そのためには「インターン制度」を導入するなど、政治家としての責任を全うできる人物かどうかを多角的に評価できる仕組みも検討されるべきだろう。
2016. 2.20 松井政就
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