『神と呼ばれた男たち』 松井政就著 



 
『神と呼ばれた男たち』 第6章

 ビル・フリードマン 〜GENUINE・本物〜



      (抜粋)


 サービスを受けた時に感じる満足感、その場所にもっと留まりたいという居心地の良さ、そしてまたここを訪れたいと思わせる充足感。顧客の心に生まれるそうした感覚が、何によってもたらされるかを完全に解明することは難しい。

それらはカジノをはじめとして接客業全般に共通のテーマである。特に近年のカジノホテルでは規模拡大と豪奢化による顧客獲得競争が繰り広げられているが、必ずしも顧客獲得に結びついていないのが実状だ。マス・マーケティングの発達によって、顧客心理への理解が一見深まったように思われるものの、逆に巨大カジノでは、プレイヤー確保に関して暗中模索になっている。

こうした時代を迎え、カジノにおける一つの研究が注目されている。三〇余年の歳月をかけ、八〇箇所以上にわたるカジノの現場観察を通してカジノプレイヤーの心理を追究し、顧客満足の構造を限りなく認識可能なレベルにまで解明しつつある研究、それを行っているのがビル・フリードマンである。

 ビル・フリードマンはカジノ合法化の時からラスベガスに身を置き、マフィアの街と呼ばれた時代から現在に至るまで、その成長に自ら関わってきた人物だ。
 一九六〇年代後半のラスベガス第二次全盛期では、伝説の人物ハワード・ヒューズの片腕となって経営を行い、加えてネバダ州立大学ラスベガス校でカジノ経営学の教鞭を執るなど、ラスベガスの発展には欠かせない役割を果たしてきた。


  人間の感情を構造的に解き明かすことは難しい。特にそれを数値で表現することはその極みである。カジノにおいても、一体何がカジノプレイヤーの満足度を左右するかといった明確な指標が存在していない。

 現在頻繁に評価指標として用いられるものに、カジノホテルの客室数や訪問客の数、スロットの台数やフロア面積という指標があるが、これらは単にカジノホテルの規模を現すに過ぎず、プレイヤーの満足度、つまりプレイヤーがそのカジノでお金を使いたいと思うか否かとは全く関係ない。喩えて言えば、ある人物が楽しい人物かどうかを、その人の身長や体重、或いは血糖値や体脂肪率で判断するようなものである。


 ではプレイヤーを満足させる要因とは一体何か? それを突き止め意識的にコントロールできれば、プレイヤーを集め、留まらせ、そして再び足を運ばせることが意図的に可能になる。それは何か。

(全文は本誌にてご覧ください)


松井政就(まつい まさなり)
1966年長野県生まれ。飯田高等学校、中央大学法学部卒。宝くじ地震研究所所長。作家。作品作りの傍ら自らもカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師等を務める。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書)『経済特区・沖縄から日本が変わる』(光文社)『ディーラーホースを探せ』(光文社)等。

 
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