『神と呼ばれた男たち』 松井政就著 



 
『神と呼ばれた男たち』 第10章

増川宏一 〜ゲームの森の語り部〜

「競馬を成り立たせているのは意見の違いである」
 これは『トムソーヤの冒険』などの作品で知られるアメリカの作家、マーク・トウェーンの言葉である。
 一体、「賭け・ギャンブル」とは何であろうか。
 ギャンブルを薬だという人がいれば毒だという人もいる。
 キャンブルを楽しむ人がいれば忌み嫌う人もいる。
 ギャンブル場を作ってくれという人がいれば、そんなものは要らないと大反対する人もいる。
 そもそも人の意見というものは異なるもので、全員の意見がピタリ一致することの方がむしろおかしい。しかし賭博のように、「意見の対立」が存在の大前提となっているものも他にあまり見あたらない。
 例えば「競馬をしよう」で意見が一致しても、買う馬が異なる。みな同じデータを用い、同じように馬を見ても結論が違う。どんなにディープインパクトが勝つと分かっていても必ず他の馬を買う人がいる。
 ルーレットでは、プレイヤーはまるで何かの学術研究の如くゲームのデータを紙に記し、あれやこれやと分析をする。そしてさんざん検討した結果、なぜか皆の賭ける数字が異なるのである。

「賭博の根底には人間の優れた特質である未来に対する積極性、好奇心、決断と熱情、それから生じる勝利の喜びと満足がある。そして敗北した場合も、次の機会に勝利を得ようという楽天性があったゆえに、絶えることなく続いてきた」(『賭博の日本史』)そう述べるのは遊戯史研究家の増川宏一氏である。増川氏は『ものと人間の文化史』(法政大学出版局)シリーズを始めとして、数々の賭け、ゲームに関するユニークな作品を世に送り出している。その研究の深さと幅広さでは余人の追随を許さない。とりわけ『賭博』シリーズでは、日本国内に留まらず、古代から現代までにわたる世界の賭博の歴史が詳解されている。具体的なゲーム内容や道具が地域によってどのように変化しているかを探求するとともに、その時代の人々の生活や社会風土にまで踏み込んだ社会史の名著である。



(全文は本誌にてご覧ください)


松井政就(まつい まさなり)
作品作りの傍ら自らもカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師等を務める。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書)『経済特区・沖縄から日本が変わる』(光文社)『ディーラーホースを探せ』(光文社)等。

 
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