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                  Vol.315 ストーカー疑惑と名無しの権兵衛 
                   
                   
                   少し温かくなったからと糖尿病部長から焼き肉に誘われた。寒いから焼き肉というならわかるが、温かくなったからというのは聞いたことがない。 
                   病気の調子も良いそうで、最近は酒の量も増えている(大丈夫か?) しかもこの日は二人とも食べ過ぎた。そこで腹ごなしにと歩くうち1時間半が過ぎ、5つほど隣の駅も通り過ぎたところにでっかいマンションが現れた。 
                   
                  「高そうなマンションだな」 
                   
                   すると後ろからぼくの名を呼ぶ女の声がした。振り返ると知り合いで1、2を争う美形が立っていた。 
                   
                  「あら嫌だ、本当に松井さんなのね」 
                   
                   嫌なのはこっちだ。二人ともベロンベロンに酔っていて、しかも超ニンニク臭いのだ。 
                   
                  「こんな場所で何しているの?」 
                  「キミこそ、どうしてこんなところにいるの?」 
                  「だってここ私のマンションだもん」 
                  「ええ? 知らなかった」 
                   じゃあ、と言って立ち去ろうとすると、部長が言った。 
                  「お前、この子の家に寄っていけよ」 
                   これぐらい図々しくないと大企業の部長にはなれないのだろう。 
                  「馬鹿言え! そんな急に寄っていけるわけないだろ」 
                  「あら、いいわよ。寄っていく?」 
                   
                   ぼくだって寄っていきたいのは山々だ。しかし二人ともこの世の物とも思えないほど酒とニンニクの臭いにまみれていた。こんな状態で近づけば、もう二度とお近づきになれないだろう 
                   
                   彼女はニヤニヤし、「ホントはストーカーしに来たんでしょ?」 
                  「ハイ、ハイ、俺たちストーカー」 
                   ぼくたちはVサインを出し、色々言い訳しながら立ち去った。再び歩き、更に2つ先の駅から終電に乗った。 
                   
                   全然関係ないが、その終電の中で、部長がこれまで「名無しの権兵衛」のことをずっと「習志野権兵衛」だと思っていたことが発覚した。 
                   
                   
                  松井政就 
                  '09.2.12 
                   
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                  松井政就(まつい・まさなり)  作家。中央大学早退。主な作品『賭けに勝つ人 嵌(はま)る人』(集英社新書)  『NO.1販売員は全員フツーの人でした。でも、売上げ1億円以上!なぜ?』  『経済特区・沖縄から日本が変わる』  『ディーラーホースを探せ』(光文社)  『神と呼ばれた男たち』等。作品作りの傍らカジノプレイヤーとして海外を巡るほか、ビジネスコンサルタント、大学講師などを務める。 
                  http://tjklab.jp/ | 
                 
              
             
            
                          
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