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松井政就の週刊日記 『よく遊び よく賭けろ』
Vol.631

イギリス国民がEU離脱を望んだ本当の理由

2016年6月23日、EU(ヨーロッパ連合)からの離脱を問う国民投票がイギリスで行われ、離脱が過半数を獲得し、2年後を目処にした離脱が確定的となった。


これは当初の予想を覆すもので、日本では株価が大幅に下落したが、日本以外の国ではそれほどの変動は起きなかった。つまり日本だけが過剰反応したというわけだ。

原因は、日本では離脱による
経済的デメリットばかりが強調されるばかりでイギリス国民が離脱を望んだ本質に全く目が向けられなかったからである。


誇張される経済的デメリット

日本メディアは、投票結果が判明すると一斉に経済に与える打撃についてばかり報じた。

しかし
日本メディアが報じるデメリットとは日本の損得ばかりで、国家としてのイギリスを憂うものは少なかった

そもそも本当に国家としてデメリットしかないならばそのような決断をイギリス国民が下すわけがない。

実はこの決断の根底には、
経済面における多少の犠牲を覚悟してでもイギリス国民が守ろうとしたものがある。


経済を犠牲にしてまでイギリス国民が守ろうとしたもの

EUの一員であることで、イギリスは経済面でのメリットを受けてきたのは事実である。

だがその一方で、押し寄せる移民による雇用の悪化、治安の悪化、EUの共通漁業政策によってイギリス国民の漁が制限されている問題などの火種がくすぶっていた。

社会主義的とも言われるほど、EUの中央集権体制は行きすぎており、各国の事情はしょせんローカルな問題でしかない。問題解決を望んでもその声に耳を傾けることはない。そうでなら自国で対処したいところだが、EUの共通政策に反することはできない。

人間にとって、経済さえ豊かなら他のことは我慢できるかといえば、必ずしもそうではない


日本に置き換えると深刻さがわかる

次のように仮定してみよう。
たとえばアジア地域に「アジア連合」というEU的な連合体が誕生し、日本もそれに加盟したとする。

アジア連合の本部は上海に置かれ、本部には各国から1名の代表者が出され、発言権は各国1つで、何事も全体最適を基準に中央集権的に決められるとしよう。すると、次のようなことが起きる。

まず、加盟国間の行き来は自由となり、学生の留学や労働者が他国で働くことも原則自由となる。また工業製品への関税もなくなり大企業の経済活動は活発化し、株価も上がり、経済指標はよくなる。


やがてイギリスと同じことが起きる

その裏では別の事態が進行する。
加盟国間の人の行き来が自由となったことで、
仕事を求めて大量の移民が日本にやってくる。人件費抑制を理由に日本企業は積極的に彼らを雇い日本人の失業率が上昇する。しかしアジア連合としての取り決めにより自国民だけの優遇は許されない。

さらに
外国人が日本で土地や住宅を自由に取得し、商業エリアや高級住宅街などを莫大なお金を持つ外国人富裕層が買い漁る。不動産価格は高騰し、一般の日本人が住めなくなり、転居を余儀なくされる。

実際にマカオでは、中国人富裕層によって不動産が買い占められ、マカオ人が住めなくなる問題が深刻化している。


自分のことを自分で決められる権利が失われる

漁業は深刻な事態に直面する。

アジア連合の共通漁業政策によって加盟国への漁業割り当てが決められる。国土や人口の比率が基準となり、日本領海内でさえ日本の漁船が自由に操業できず、中国の船のほうが多く操業するような事態が起きる。

しかし抗議の声にアジア連合本部が耳を傾けることはなく、自国の問題を自国で解決する権利を失った状態となる。つまり、事実上の「主権を失った状態」となる。

社会は混乱し、現在でさえ問題となっているヘイトスピーチのような排他的活動も深刻化する。


EU離脱問題の本質

こうした状況に耐えられなくなり、イギリス国民は自分たちのことを自分たちで決める権利を取り戻そうと考えた。これが今回イギリス国民がEUから独立したいと考えた本質的な理由である。

もし日本が同様の状態に置かれた場合、それでもなお連合体に残留すべきと判断するだろうか? 経済面のメリットさえあれば主権を奪われた状態でもいいと考えるだろうか?

日本では離脱による経済的なデメリットばかりが強調され、離脱に投票したイギリス国民を無責任であるかのように報じるケースが目立つ。

しかしイギリスのEU離脱を問う国民投票はこのような状況下で、奪われた主権を取り戻そうとして行われた切実な叫びに他ならない。

今回の結果は離脱と残留が52対48という僅差であったことから、まさに国民の判断は二分されたかたちだ。

だからといって国民の心も完全に離脱と残留に分かれているかといえば、決してそうとは言えない。投票結果が52対48であったのと同じく、
イギリス国民一人ひとりの心の中も離脱か残留かの間できっと五分五分に揺れ動いていたはずだからだ。

今回の問題を語る際、そうしたイギリス国民の苦悩を思いやることを、くれぐれも忘れてはならない。

2016.6.30 松井政就







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